退院後に差がつく「23時間の使い方」と生活リハビリの科学
はじめに:退院後、こんな不安はありませんか?
「病院ではできていたのに、自宅に戻ったらうまく動かなくなってきた…」
「リハビリの回数が減って、右(左)手を全然使わなくなってきた」
「もう何年も経っているから、回復は難しいのでは…」
脳卒中後、多くの方がこの“見えない壁”にぶつかります。
しかし結論として──
脳の回復力(可塑性)は一生続きます。
そして、正しい方法を続ければ、いまからでも改善は可能です。
この記事では、脳卒中後の麻痺回復を最大化するための戦略 を、医療専門職の視点から分かりやすく解説します。
対象は、脳卒中を経験されたご本人と、そのご家族です。
脳卒中後の回復は「病院リハだけ」では不十分な理由
病院リハは“時間の壁”がある
医療保険のリハビリは、一般的に1回40〜60分、週数回という制度的な制限があります。
一方で、脳卒中後の麻痺改善の中心は「筋トレ」ではなく、脳が動作を学び直す“運動学習”です。
この運動学習には、とにかく反復量が必要です。
しかし制度上、どうしても“十分”な量が確保できません。
「病院に通っていれば、そのうち良くなる」というイメージだけでは、回復が頭打ちになりやすいのです。
退院後に反復量が急激に減る
自宅での生活ではどうしても、
- リハビリの量が減る=麻痺側への感覚入力が減る
- 日常生活が非麻痺側で代償的でカタくなる
- 立ち上がるときも健側頼りになってしまう
といったように、「麻痺側を使わないほうが楽」な場面が増えていきます。
その結果、麻痺側を“使う時間”が極端に少なくなり、
脳への入力(インプット)が弱くなる → 動きが悪化するという悪循環に入ってしまいます。
回復を止めてしまう「23時間の過ごし方」
病院でのリハビリは1日1時間だとしても、残りの23時間は自宅での生活です。
この“圧倒的に長い時間”に何をするかが、今後の改善傾向をを決定づけます。
たとえば、
- 装具だけで歩いて、素足で支える感覚の経験がない
- 麻痺側の手で体重を支えた経験がない
- 手すりをひっぱることが日課だ
こうした生活パターンは、脳にとっては「使わなくていいなら、その機能は弱めておこう」というメッセージになります。
これが「麻痺が戻った気がする」「前より動きにくい」という感覚につながります。
麻痺側を使っているようで、使えていない。そんな状態が「不使用の学習」を強める傾向があります。
科学的根拠:脳の可塑性は“一生続く”
脳は何歳でも変わる
脳は、年齢を重ねても毎日少しずつ作り変わっています。
ただ、これも良く悪くもです。
新しい動作や刺激を繰り返すほど、そこに必要な神経回路が強くなり、逆に使わない回路は弱くなります。
この仕組みを、科学的にはUse-dependent plasticity(使用依存性可塑性)と呼びます。
簡単に言えば、
「使った部分ほど強くなり、使わない部分は弱くなる」
ということです。
麻痺側を使うほど回復する理由
脳卒中後の麻痺は、「壊れた部分があるから一生そのまま」ではありません。
残っている神経ネットワークが、
- 新しいルートを作ったり
- 別の領域が役割を肩代わりしたり
することで、機能を取り戻していくことができます。
そのためには、
- 麻痺側を使う
- 正しい動きを繰り返す
- それを毎日続ける
という条件が欠かせません。
誤学習(代償動作)が固まる理由
生活の中でよく起こるのが、「代償動作が正しい動きとして脳に固定される」という現象です。
たとえば、
- 手を動かしてるつもりが肩が動いてる
- 足で立ち上がらず、手で手すりを持って立っている
- 健側の足ばかりに体重をかけて立つ
といった動作です。
ご本人からすると「工夫して何とかやっている」感覚ですが、
脳にとっては「それが正解の動きなんだね」という認識になってしまいます。
この誤学習が進むと、
- 本来使いたい筋肉がさらにサボる
- 変なところに負担がかかり、痛みや疲れが増える
- 「正しい動き」に戻すのが難しくなる
などの問題が起きます。
回復を最大化する「生活リハビリの3原則」
ここからは、脳卒中後の回復を加速させるために、
自宅で意識してほしい「生活リハビリの3原則」をお伝えします。
① 意図的な反復:麻痺側を“あえて使う”
まず大切なのは、日常の中で「麻痺側をあえて選ぶ」習慣をつくることです。
たとえば、
- テーブルを拭くときに麻痺側の手で支える
- ペットボトルや軽いコップを麻痺側で持つ
- 裸足で立ち座りの練習をする
最初は時間がかかりますし、うまくいかないことも多いはずです。
しかし、その「挑戦した回数」こそが、脳の回復を促す刺激になります。
② 課題指向型アプローチ:生活そのものをリハビリにする
脳は「意味のある動き」を好みます。
単に、
- 何も持たずに手を上げ下げする
- その場で足踏みをする
といった“抽象的な練習”よりも、
- 蛇口をひねる
- 服を着る・脱ぐ
- 椅子に深く座る・立ち上がる
- 実際のトイレや洗面所で動作を行う
といった、
生活に直結した「目的のある動き」のほうが、運動学習の効率が高くなります。
これを「課題指向型アプローチ」と呼びます。
③ 安全 × 継続できる環境づくり
リハビリは、1日だけ頑張っても意味がありません。
大切なのは、
「少しずつでも、毎日続けられること」です。
そのために、
- 痛みが強い日は、負荷や回数を調整する
- リハビリ効果が維持できる生活リズムをとる
- 姿勢を整えやすい椅子やテーブルを選ぶ
- 手すりや家具の配置を見直して、動きやすい動線にする
といった「生活の環境づくり」が重要です。
ご本人だけでなく、ご家族・支援者が一緒に環境を整えてあげることで、
「無理なく続けられる生活リハビリ」が実現しやすくなります。
回復を加速させる「ステップアップ戦略」
ここからは、リハビリの進め方を
4つのステップに分けてイメージしてみましょう。
STEP1:基礎の理解(専門職とのインプット)
まずは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの専門職と一緒に、正しい動作の“型”をつくる段階です。
- 立ち上がりのときの足の位置
- 腕を上げるときの手や体幹の使い方
- 歩行中の重心の移動
などを、専門職に見てもらいながら、
「どう動かすのが負担が少なく、安全で効率が良いのか」を学びます。
STEP2:生活全体で“量”を確保する
次に重要なのが、「どれくらいの頻度で、その動きを繰り返すか」です。
病院のリハビリだけでは、反復回数は足りません。
そこで、
- 歩くたびに「手に何かを持って歩く」
- 食事のときにテーブルなどに手を置いてみる
- 歯みがきのときに口の中を広げてみる
というように、生活全体を“リハビリの場”に変えていきます。
STEP3:質の向上(動作の精度を高める)
ある程度、反復量が増えてきたら、次は「質」を整えるフェーズに入ります。
- 軌道(どの方向に手足が動いているか)
- 速度(速すぎないか、遅すぎないか)
- 姿勢(猫背や反り腰になっていないか)
- 力の入り方(無駄な力みがないか)
こうしたポイントを意識することで、
少ない力で、安定した動きができるようになっていきます。
STEP4:自立・習慣化(自動化のステージ)
最終的には、
「意識しなくても、麻痺側が自然に生活の中で使われている」状態を目指します。
ここまで来ると、
- 補助をほとんど使わずに立ち座りができる
- 家事や趣味の動きに、麻痺側が自然と参加している
- 「そういえば、前よりも疲れなくなった」と感じる
といった変化が出てきます。
もちろん、ここに到達するスピードは人それぞれですが、
「やるべき方向」が定まっていれば、少しずつでも前へ進んでいくことができます。
保険内リハと保険外リハの違い
保険内リハビリの特徴
病院や介護保険で行われる保険内リハビリには、次のような特徴があります。
- 1回40〜60分と時間が限られている
- 内容が制度によってある程度決められている
- 担当者が若手〜ベテランまで幅広く、固定されないことも多い
- 自宅や生活環境まで十分に踏み込めない場合がある
もちろん、保険内リハビリは非常に大切です。
ただし「それだけで回復を完結させる」のは難しい現実があります。
私たちは保険内と外を併用して受けることをオススメしています。
リハビリのセカンドオピニオンとしてご利用いただくのもありかと思います。
保険外リハビリ(Totonoe‐整‐)の強み
一方で、保険外リハビリ(自費リハビリ)は、
- 1〜2時間と時間をかけた深いセッション
- 生活動作・趣味・仕事など、個別の目標に合わせたオーダーメイドのプログラム
- 経験豊富な専門職が担当し、改善に必要な視点(動作・環境・習慣)を統合して関わる
- 「リハビリ室だけ」でなく、自宅や実際の生活場面を踏まえたアドバイスができる
といった強みがあります。
特に、Totonoe‐整‐では、
- 動作分析(どこでつまずいているか)
- 生活環境や習慣(家の構造や家具配置)
- 身体のコンディション(姿勢・筋緊張・疲労・睡眠)
などを総合的に見ながら、
「23時間の使い方」まで含めて回復のデザインを行うことを重視しています。
今日からできる“麻痺改善アクション”
ここまで読んでくださったあなたへ。
今日からできる、小さな一歩をいくつか提案します。
- 麻痺側でできそうな家事・動作を1つだけ選び、「毎日それを続ける」と決める
- 歩くときに、ほんの少しでいいので「手がある」ことをイメージする
- 立ち座りの回数を1日数回、「感覚にフォーカス」して行ってみる
- 寝具や椅子の高さを見直し、起き上がり・立ち上がりがしやすい環境に整える
- 疲れをためないよう、睡眠時間と休息のリズムを優先する
大きな変化は、小さな行動の積み重ねからしか生まれません。
「これならできそう」と思えることから、ぜひ始めてみてください。
改善が進む人・進みにくい人の違い
改善が進む人の特徴
- 麻痺側を“あえて使う”ことにチャレンジしている
- 「昨日より少し楽になった」など、小さな変化に気づこうとする
- 無理をしすぎず、休みながらでも継続している
- 家族や周囲の人と協力しながら取り組んでいる
改善が止まりやすい人の特徴
- 麻痺側をまったく使わない生活になっている
- 代償動作が当たり前になり、修正の機会がない
- 睡眠不足や疲労を抱えたままになっている
- 「どうせ良くならない」と感じて、チャレンジする機会が減っている
どちらに当てはまるかは、今日からでも変えることができます。大事なのは、「これからどうしていくか」です。
まとめ:改善は終わっていません
脳卒中後の麻痺は、たしかに簡単な問題ではありません。
それでも、
脳は一生、変わり続けます。
生活の中の“小さな選択”が、回復の速度を大きく変えていきます。
病院でのリハビリが一段落しても、そこで「終わり」ではありません。
むしろ、退院後の生活こそが、回復の本番です。
今日からできることは、きっとあります。
そして、あなたの身体には、まだ伸びしろがあります。
よくある質問(FAQ)
Q.発症から数年経っていても、改善は見込めますか?
A.はい。脳の可塑性は生涯続くため、正しい方向性と継続があれば、年数が経っていても改善は十分に期待できます。
Q.自主トレはどれくらいやればいいですか?
A.長時間まとめて行うよりも、「短時間 × 高頻度」で、生活の中にこまめに散りばめていく方法が効果的だと考えています。
Q.家族として、何をサポートすればよいですか?
A.「手伝いすぎないこと」と「危険がない範囲で、麻痺側を使う機会を増やすこと」がポイントです。無理に引っ張ったりせず、一緒に環境づくり・動線づくりを考えてあげると良いでしょう。
Q.介護保険のリハビリと、自費リハビリ(保険外)は併用できますか?
A.多くの場合、併用は可能です。ただし、曜日や時間帯の調整が必要になるため、担当のケアマネジャーや事業所と相談しながら進めていきましょう。
おわりに──Totonoe‐整‐からのご案内
「もっと自分に合ったリハビリの方法を知りたい」
「退院後の生活リハビリを一緒に設計してほしい」
「伸び悩みを何とかしたい」
そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。
Totonoe‐整‐では、
- 脳卒中後の麻痺改善に向けた、丁寧な動作分析
- ご自宅・生活環境もふまえた「23時間の使い方」の設計
- 無理なく続けられる生活リハビリの提案
を通じて、
「不安な毎日」から「少し先の未来が楽しみになる毎日」への変化をサポートします。
お問い合わせやご相談は、お気軽にどうぞ。
あなたとご家族の改善のプロセスを、心から応援しています。

