高次脳機能障害は“机上訓練だけ”では改善しない|運動×認知で生活が変わる科学的理由

Totonoe通信
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石垣貴康|作業療法士/Totonoe代表
病院で良くなっていたのに、自宅に戻るとまた動きにくくなる──そんな“リハビリの壁”に直面する方を多く出会ってきました。原因は努力不足ではなく、生活環境・習慣・動作のクセ・生活リズムです。私は「機能は生活からつくられる」という視点で、寝たきり・片麻痺・脊髄損傷・神経難病など重度の方へ、生活24時間を整える訪問パーソナルリハビリを提供しています。
「もう良くならない」と感じても、まだ方法は残っている可能性があります。一緒に、“もう一度動ける人生”を取り戻しましょう。

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はじめに:高次脳機能障害が「思ったより改善しない」のはなぜか?

高次脳機能障害、脳卒中後遺症(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)によって、注意障害、遂行機能障害、記憶障害、感情の不安定、判断力低下、コミュニケーションの難しさなどが続き、「退院してからの生活」に大きな影響が出ることは珍しくありません。

しかし、実際に訪問リハビリや外来リハビリを受けている方からは、こんな声がよく聞かれます。

・プリント課題を続けているが、生活は変わらない

・机で集中できても、外出先では混乱する

・会話の途中で話題が飛びやすい

・仕事復帰するとミスや混乱が起きやすい

・家族関係がギクシャクして落ち込む

つまり「机の上の認知訓練」はできても、「生活の中での認知」が改善しないという大きな壁が存在しています。

この現象には理由があります。

高次脳機能は、身体の動きや生活環境と連動して働くからです。

高次脳機能は「身体 × 運動 × 感覚 × 生活」の組み合わせで働く

高次脳機能は、脳の内部で単独に働いているわけではなく、「身体」「姿勢」「感覚」「環境」「習慣」「生活場面」といった複数の要素が同時に統御されています。

私たちは生活の中で、歩きながら考え、料理をしながら次の手順を決め、家の片付けをしながら家族と会話し、計画や判断をしながら動いています。

これらはすべて「複合タスク」です。

一方、机上の認知課題は、刺激が単純で、動作も感覚もほとんど関わりません。

つまり、生活で使う認知と構造が違いすぎるのです。

前頭前野の働きは運動や姿勢に深く影響される

前頭前野は「実行機能」「判断」「注意」「計画」「問題解決」などを司る領域として知られていますが、実は移動動作、姿勢制御、バランスなどの身体統御と密接な関係があります。

特に、歩行中の注意配分、段差の判断、周囲の人との距離感など、生活上の重要な情報処理は、運動と認知が同時に求められる場面です。

つまり、身体を使わずに「脳だけ」を鍛えようとしても、生活に応用できる神経回路は育ちにくい、ということです。

小脳は「運動+認知+感情」を統合する重要な司令塔

小脳は昔から「運動の器官」と考えられてきましたが、現代の脳科学では、感情調整、思考、言語、情緒の安定にも関わることが明らかになっています。

Schmahmann らが提唱した「Cerebellar Cognitive Affective Syndrome(CCAS)」によって、小脳損傷が情緒不安定、社会性の低下、遂行機能障害につながる可能性が示されています。

つまり、「運動を通して小脳を刺激する」という方法は、認知だけでなく感情の安定にも寄与します。

机上の訓練が改善しにくい理由①:感覚入力が少ない

生活では、足裏の感覚、視覚、聴覚、触覚、位置感覚など、あらゆる感覚が統合されています。しかし、プリント課題や机上トレーニングには、これらの感覚入力がほとんどありません。

脳は感覚フィードバックと運動コントロールによって、「実行可能な認知機能」として働きます。

机上の訓練が改善しにくい理由②:生活環境とのギャップ

現実の生活は複雑です。

家の中では、家事、家族の会話、予定の管理、買い物、料理、掃除、片付けなど、瞬間的な判断が求められる場面が多数あります。

ところが机上の課題は、静かな環境で、周囲に危険も変化もほとんどありません。

つまり、脳が学習したことを生活で使えるようになりづらいのです。

机上の訓練が改善しにくい理由③:身体の不均衡が放置されている

脳卒中の方には以下のような身体的課題が残りやすいです。

・片麻痺

・歩行の左右差

・姿勢不良

・体幹機能の低下

・筋緊張の偏り

・感覚低下

・バランス障害

これらがある状態で机上の認知訓練だけ行っても、脳が受け取る情報自体が偏っているため、根本的な改善に結びつきづらくなります。

運動 × 認知を組み合わせると脳は劇的に変わる

最新の脳科学では、運動と認知機能が相互に影響し合うことが多数報告されています。

・運動が前頭前野の血流を増やす

・BDNFが神経可塑性に関与

・デュアルタスクが実行機能を強化

・有酸素運動が注意力、感情安定に影響

・荷重調整が小脳ネットワークを刺激

つまり、身体を使いながら認知課題を行うことで、脳は生活に必要な形で再構築されます。

デュアルタスク(歩行×認知)は生活改善に直結する

たとえば「歩きながら会話をする」というタスクは、注意配分、実行機能、バランス、姿勢制御、手の操作、環境判断など、多くの神経機能を同時に使います。

デュアルタスクは生活に直結した能力を鍛えるため、机上訓練より“応用力”が高まります。

生活の中で使える認知こそ本物

机上でできても、生活で使えなければ意味がありません。

高次脳機能障害のリハビリでは、生活の中で使える認知、すなわち「実践的な認知」を育てることが重要です。

・料理を計画する

・買い物をする

・支払いを管理する

・外出の計画を立てる

・家事を分担する

これらは日常で求められる能力そのものです。

訪問リハビリが効果的な理由

訪問リハビリの強みは、実際の生活環境の中で、動作、姿勢、生活導線、家族関係、習慣などを見ながら改善できることです。

これは外来では得られにくい視点です。

Totonoe哲学:不調は「機能×習慣×環境」のズレから生まれる

Totonoeでは、身体の偏り、生活習慣、睡眠、姿勢、動作、生活導線、人間関係まで含めた「機能デザイン」を重視しています。

脳は身体だけでも、認知だけでもなく、「生活」を通して働くからです。

家族が抱えている悩みもしっかり向き合う必要がある

高次脳機能障害では、本人だけでなく、家族の負担が増えやすいです。

・会話が噛み合わない

・感情がコントロールできない

・家事の分担が崩れる

・将来の不安が続く

これらは決して「性格」ではありません。脳の問題です。

生活が変わらないなら「訓練の方法」が間違っている

もし机上訓練を続けても生活が変わらないなら、訓練方法自体を見直す必要があります。

脳卒中後の回復には「時期」だけでなく、「アプローチの質」が重要です。

まとめ:脳はまだ変わる。生活の中で、動きの中で。

高次脳機能は、訓練の方法次第でまだまだ変わる可能性があります。

・身体の偏りを改善

・生活環境を整える

・デュアルタスクを取り入れる

・運動と認知の統合を目指す

・家族と一緒に生活設計をする

脳は、生活の中で使われることで再び働き始めます。

あなたやご家族が「もう変わらない」と感じていても、脳は必ず良くも悪くも応えます。

科学的にも、臨床的にも、生活的にも、その根拠があります。

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石垣貴康|作業療法士/Totonoe代表
病院で良くなっていたのに、自宅に戻るとまた動きにくくなる──そんな“リハビリの壁”に直面する方を多く出会ってきました。原因は努力不足ではなく、生活環境・習慣・動作のクセ・生活リズムです。私は「機能は生活からつくられる」という視点で、寝たきり・片麻痺・脊髄損傷・神経難病など重度の方へ、生活24時間を整える訪問パーソナルリハビリを提供しています。
「もう良くならない」と感じても、まだ方法は残っている可能性があります。一緒に、“もう一度動ける人生”を取り戻しましょう。

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