脳幹障害とは?歩けない・むせる・疲れやすい…リハビリ難民と家族の対処ガイド|愛知・岐阜・三重のTotonoe

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石垣貴康|作業療法士/Totonoe代表
病院で良くなっていたのに、自宅に戻るとまた動きにくくなる──そんな“リハビリの壁”に直面する方を多く出会ってきました。原因は努力不足ではなく、生活環境・習慣・動作のクセ・生活リズムです。私は「機能は生活からつくられる」という視点で、寝たきり・片麻痺・脊髄損傷・神経難病など重度の方へ、生活24時間を整える訪問パーソナルリハビリを提供しています。
「もう良くならない」と感じても、まだ方法は残っている可能性があります。一緒に、“もう一度動ける人生”を取り戻しましょう。

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脳幹にトラブルがあると、なぜ「全部うまくいかない」のか?|脳幹障害とリハビリ難民・家族のためのやさしい解説

「退院してリハビリをがんばっているのに、思うように良くならない」
「病院の中では歩けていたのに、自宅に戻ったらむしろ不安定になってきた」
「手や顔がどんどん固まってきて、家族としてどう支えたらいいか分からない」

こうした悩みを抱えている方は少なくありません。
いわゆる「リハビリ難民」と呼ばれる状態です。

・リハビリはしている
・でも、身体はなかなか変わらない
・むしろ疲れやすく、生活の不安は増えていく

この背景に、じつは見落とされがちな「脳幹(のうかん)」という部分の問題があります。

脳幹は、呼吸や心臓の動きだけでなく、
姿勢・バランス・飲み込み・表情・目の動き・集中力・やる気など、
私たちの「生活そのもの」を支える大事な場所です。

この記事では、

  • 脳幹にトラブルが起きると、なぜ全身が「ちょっとずつ」おかしくなるのか
  • なぜ、退院後のリハビリがうまくいかなくなりやすいのか
  • ご家族として何を意識し、どう支えていくとよいのか

を、専門的な内容をかみ砕きながら、わかりやすくお伝えしていきます。

「もう良くならないのでは…」と感じている方にこそ、
最後まで読んでいただきたい内容です。

1.脳幹とは?「全身のまとめ役」になっている場所

まずは、そもそも脳幹とは何かを簡単に整理しておきましょう。

脳は大きく分けると、

  • 大脳(考える・感じる・動かす指令を出す)
  • 小脳(動きの微調整・バランス・学習)
  • 脳幹(呼吸・心拍・姿勢・覚醒レベルなどをまとめる)

の3つに分けられます。

このうち脳幹は、

  • 中脳(ちゅうのう)
  • 橋(きょう)
  • 延髄(えんずい)

という3つの部分からできています。

ここは、たとえて言うなら「体の操作盤」「コントロールセンター」のような場所です。

脳幹には、次のような大事な役割があります。

  • 呼吸や心臓の動きをコントロールする(生命維持)
  • 姿勢をまっすぐ保つ・バランスをとる
  • 歩行のリズムをつくる(足を交互に出すパターン)
  • 飲み込み・むせ・咳などの動きを調整する
  • 顔の表情筋や目の動きをコントロールする
  • 耳や体からの感覚情報を「脳の上の方」へ中継する
  • 覚醒レベル(ぼーっとしているか、集中できているか)を調整する
  • 自律神経(血圧・体温・消化など)のバランスをとる

つまり脳幹は、

「からだの土台」「こころの安定」「生活のリズム」のほとんどに関わっています。

脳幹にトラブルが起きると、特定の筋肉や関節だけでなく、
「全身のつながり」そのものが乱れてしまうのです。

2.脳幹障害で起こりやすい症状:「全部がちょっとずつうまくいかない」

脳幹梗塞(脳幹の脳梗塞)や脳幹出血、
小脳や延髄などを巻き込む病変が起こると、どのような症状が出るのでしょうか。

代表的なものを、できるだけわかりやすく整理してみます。

2-1.姿勢・バランスが安定しない

  • 座っていても、すぐに疲れて姿勢が崩れる
  • 頭がどちらかに傾きやすい
  • 立つときにフラフラして怖い
  • 歩行器や杖がないと歩くのが不安

これらは、脳幹と小脳・前庭(耳の奥のバランスのセンサー)の連携が崩れることで起こります。

「足の筋力だけの問題」ではなく、身体全体のバランスシステムの問題として捉える必要があります。

2-2.飲み込み・むせ・声の問題

  • 飲み込みにくい、よくむせる
  • 声が出しにくい、かすれる
  • 長く話すと疲れてしまう

これは、脳幹にある嚥下(えんげ)・発声に関わる神経の核が影響を受けることで起こります。

安全に食事をとることだけでなく、
「話す」「笑う」「コミュニケーションをとる」ことにも支障が出やすくなります。

2-3.顔の動き・目の動きの問題

  • 片側の顔が動きにくい(表情が乏しい)
  • まぶたが閉じにくい・開きにくい
  • 眼球がスムーズに動かない(ものが二重に見える・ピントが合いにくい)

顔や目の動きは、脳幹から出ている脳神経がコントロールしています。
ここが障害されると、表情や視線の安定、視界の情報処理にも影響が出ます。

2-4.「ボーッとしている」「集中が続かない」

  • 日中なのに眠そうにしている
  • 話しかけても反応がゆっくり
  • リハビリ中、すぐに注意がそれてしまう

これは、脳幹の「覚醒システム」が弱っているサインかもしれません。

上行性網様体賦活系(ARAS)というシステムがうまく働かないと、
からだ以前に「脳のスイッチがONになりにくい」状態になります。

2-5.自律神経の乱れ・疲れやすさ

  • すぐに血圧が上下する
  • 体温調節が苦手になった
  • ちょっと動いただけでぐったりしてしまう

こうした不調も、脳幹の働きと深く関係しています。

リハビリで少し動いただけなのに、極端に疲れてしまう
この場合、「がんばりが足りない」のではなく、
脳幹・自律神経の負担が大きすぎる可能性があります。

3.なぜ「病院ではできていたこと」が自宅でできなくなるのか

リハビリ難民のご家族から、よく聞く言葉があります。

「入院中はもっと歩けていたのに…」
「病院のベッドでは起き上がれたのに、自宅のベッドになるとうまくいかない」

これは決して珍しいことではありません。
理由の一つは、「環境が変わると、脳幹への負担も大きく変わる」からです。

3-1.病院は「脳幹にやさしい環境」になっている

病院の環境は、多くの場合、

  • ベッドの高さが調整されている
  • マットレスの固さが一定
  • 床が平らで転びにくい
  • 照明が均一で、視界が安定している
  • トイレ・洗面所までの動線がシンプル

こうした条件が整っています。

これは、脳幹にとって言い換えれば、

「姿勢・視線・バランスがとりやすい環境」

ということです。

3-2.自宅は「生活らしさ」と引き換えに、負担も多い場所

一方、自宅の環境はどうでしょうか。

  • ベッドが柔らかく、沈み込む
  • 椅子やソファの高さがバラバラ
  • 段差や敷居が多い
  • 家具や物が多く、視界がごちゃつく
  • 廊下やトイレが狭い

こうした環境は、健康な人にとっては「住みやすさ」かもしれませんが、
脳幹に障害を抱えた方にとっては、

「姿勢とバランスを崩しやすい、負荷の高い環境」

になってしまうのです。

3-3.「リハビリが足りない」のではなく「環境が合っていない」

ここで大事なのは、

「病院ではできたのに、自宅ではできない」=「リハビリが足りない」
ではなく、

「病院では環境が整っていたが、自宅では脳幹への負担が増えてしまっている」

と捉え直すことです。

リハビリの内容そのものも大事ですが、

  • ベッドや椅子の高さ
  • 照明の明るさ
  • 座る位置からテレビ・テーブルまでの距離
  • 手すりの位置
  • 足元の滑りやすさ

こうした「生活の舞台設計」が、脳幹リハビリの効果を大きく左右します。

4.リハビリは筋トレではない:「全身のつながり」を取り戻す作業

脳幹に問題があるとき、
「筋力トレーニングを増やせば良くなる」とは限りません。

むしろレジスタンストレーニングを増やしすぎると、

  • 余計な筋緊張が高まる
  • 疲労が増えて集中が続かない
  • 代償動作(変なクセ)が定着しやすい

といったリスクもあります。

ここで重要になるのが、「全身のつながりを整える」という発想です。

4-1.体幹(コア)の安定がすべての土台になる

  • 座っているとすぐにくずれる
  • 頭がどちらかに傾く
  • 立ち上がりでグラつく

こうした場合、手足の筋トレだけでは不十分です。

まずは、

  • 骨盤がまっすぐ乗っているか
  • 座面の高さが合っているか
  • 背もたれに過度に頼りすぎていないか

といった体幹=コアの安定を優先して整える必要があります。

4-2.頭と首の位置は「脳幹の窓口」

頭の位置・首のねじれは、

  • 眼の位置
  • 耳(前庭)の位置
  • 口・舌・喉の位置

すべてに影響します。

頭が前に突き出たり、常に片側に傾いていると、

  • 飲み込みが不安定になる
  • 呼吸が浅くなる
  • 視線がブレて、フラつきやすくなる

といった問題を引き起こします。

リハビリでは、

  • 後頭下筋群(後頭部の短い筋肉)
  • 舌骨の周りの筋(舌骨上筋群・舌骨下筋群)
  • 頸部の前後・左右のバランス

を丁寧に整えながら、「頭が空間の中でまっすぐ保てる状態」を目指します。

4-3.呼吸・表情・飲み込みも「姿勢」とセットで考える

脳幹は、自律神経とも密接に関係しています。

  • 浅く速い呼吸
  • 表情が乏しい
  • 飲み込みがぎこちない

こうした症状があるとき、
呼吸練習や嚥下訓練だけを増やしても限界があります。

・体幹を整える
・頭頸部の位置を整える
・そのうえで呼吸や飲み込みの練習をする

という「順番」がとても大事です。

5.ホームエクササイズが続かない本当の理由と、その解決法

リハビリ難民の方・ご家族から、よく聞く言葉のひとつが、

「自主トレが続かない」
「家で何をやったらいいかわからない」

というものです。

ここにも、脳幹障害ならではの落とし穴があります。

5-1.「うまくいっている感覚」がわかないと、人は続かない

ホームエクササイズが続くかどうかは、

  • メニューの数
  • 難易度の高さ

よりも、

「これは自分にとって意味がある」「うまくできている実感がある」

かどうかに大きく左右されます。

講義の中でも、ある重症例に対して、

  • リラックスできるホームプログラムを10個用意
  • それぞれに「うまくいった状態」と「力が入りすぎている状態」の基準を言語化
  • A→B→Cと段階づけして、できたところにチェックを入れていく

という方法が紹介されていました。

ポイントは、次の3つです。

  1. 「やればいい体操」ではなく、「どうなったら成功か」を明確にする
  2. その成功を、本人の言葉・感覚で説明できるようにする
  3. できた・できないが「見える化」されるチェック表を使う

5-2.ご家族ができる「声かけ」と「記録」のコツ

ご家族がホームエクササイズに関わるときは、

  • 「今日は何回やった?」ではなく
  • 「今日はどの体操が一番やりやすかった?」
  • 「昨日より力みが少なかった気がするけど、本人はどう感じた?」

といった「質」に踏み込んだ声かけをしてあげると、
本人の気づきとモチベーションが育ちやすくなります。

簡単なメモで構わないので、

  • 日付
  • やったメニュー
  • 本人のコメント(「今日は右足が軽かった」など)

を残しておくと、リハビリスタッフとの共有もしやすくなり、
「みんなで良くしていく」感覚が育ちます。

6.ご家族が今日からできる「脳幹にやさしい生活の整え方」

ここからは、専門的な手技ではなく、
ご家族が今日から実践できるポイントを具体的にお伝えします。

6-1.ポイント① 姿勢が整いやすい「居場所」をつくる

  • 座る椅子の高さを見直す(足裏がしっかり床につくか)
  • ソファが柔らかすぎて沈み込んでいないか
  • 座ったとき、膝が上がりすぎていないか
  • テレビ・テーブル・家族の顔が「見やすい位置」にあるか

これだけでも、脳幹への負担は大きく変わります。

「座るとすぐ疲れてしまう」=体力不足と決めつけず、
まずはいす・テーブル・周りの配置を見直してみてください。

6-2.ポイント② 朝〜夜のリズムを「なるべく一定」にする

脳幹は、自律神経や睡眠覚醒リズムとも関係が深い場所です。

  • 起きる時間
  • 食事の時間
  • リハビリ・散歩など活動する時間
  • 寝る前の過ごし方

これらを毎日大きく変えすぎないことが、
覚醒レベルと体調の安定につながります。

「何時きっかりに」ではなく、

  • だいたい同じ時間に起きる
  • だいたい同じ時間に3食とる
  • 夜更かしを少し減らす

といった「ゆるい一定リズム」からで構いません。

6-3.ポイント③ 無理のない通院・訪問スケジュールを組む

リハビリの回数は多ければ多いほど良い、というわけではありません。

  • 毎回の通院でぐったりしてしまう
  • リハビリの日は一日つぶれてしまい、生活との両立が難しい

こうした状態が続くと、
からだだけでなくこころも疲れてしまいます

・通院リハビリと訪問リハビリをどう組み合わせるか
・家族の負担をどう分散するか
・「続けられるペース」はどこか

を、担当のリハビリスタッフやケアマネジャーと一緒に話し合ってみてください。

「続けられること」そのものが、最大のリハビリ効果になります。

7.「どこまで良くなりますか?」より大切な視点

脳幹障害のリハビリに関わっていると、
ご家族から必ず聞かれる質問があります。

「どこまで良くなりますか?」
「前みたいに歩けるようになりますか?」

正直に言うと、これに正確に答えられる専門家はいません

なぜなら、回復の度合いは、

  • 障害の場所・大きさ・重さ
  • 年齢・体力・他の病気の有無
  • 治療・リハビリの内容
  • 自宅環境・生活リズム
  • 家族の支え方
  • 本人の性格・モチベーション

など、たくさんの要素が複雑に関わっているからです。

ただ、ひとつだけはっきり言えるのは、

「どこまで良くなるか」よりも
「良くなりやすい条件をどこまで整えられるか」

のほうが、現実的で、前向きな視点だということです。

・姿勢や環境は整えられているか
・ホームエクササイズは、「やらされている」から「自分で選んでいる」に変わっているか
・家族が一人で抱え込みすぎていないか

こうしたことを一つずつ見直していくことで、
回復のカーブは、ゆっくりでも確実に変わっていきます

8.チェックリスト:リハビリ難民になりかけているサイン

最後に、ご家族と一緒に見直していただきたい
簡単なチェックリストを用意しました。

当てはまるものが多いほど、
「リハビリ内容」より「環境やつながり」の見直しが必要かもしれません。

8-1.からだのサイン

  • 座っているとすぐに姿勢が崩れる
  • 頭がいつも同じ方向に傾いている
  • 歩くとき、ふらつきやすく不安が強い
  • 食事中によくむせる・飲み込みが不安
  • 表情が乏しく、疲れているように見える
  • 日中でもボーッとしている時間が長い

8-2.生活・環境のサイン

  • 自宅の椅子やソファの高さがバラバラ
  • ベッドが柔らかく、起き上がりが大変そう
  • よく使う動線に段差・絨毯・コードなどが多い
  • トイレ・洗面所が狭く、介助しづらい
  • 生活リズム(起床・食事・就寝時間)が日によって大きく変わる

8-3.こころのサイン

  • 本人が「どうせ良くならない」と口にすることが増えた
  • 家族が「自分が頑張るしかない」と感じている
  • リハビリに行くこと自体が負担で、気が重い
  • 不安やイライラを誰にも相談できていない

もし、いくつも当てはまるときは、
「頑張りが足りない」のではなく、「一人で抱え込みすぎているサイン」かもしれません。

地域のリハビリスタッフ・主治医・ケアマネジャーなど、
使える支援は遠慮なくフル活用していきましょう。

おわりに:脳幹を知ることは、「希望の持ち方」を知ること

脳幹障害は、たしかに重いテーマです。
「ロックドイン症候群」「脳幹梗塞」「延髄外側症候群」など、
聞くだけで不安になる病名も少なくありません。

けれど、脳幹の役割を知ることは、
決して「絶望の確認」ではありません。

・なぜ姿勢がこんなに大事なのか
・なぜ環境を整えると動きが変わるのか
・なぜ家族の支え方で回復のカーブが変わるのか

その「理由」が見えてくることは、
ご本人にも、ご家族にも、そして支援する側にも
大きな安心につながります。

リハビリは、一気に劇的な変化が起こるものではありません。
それでも、

  • 座りやすくなった
  • むせが少し減った
  • 歩くときの恐怖が少し減った
  • 顔の力みが和らいだ

そういった小さな変化の積み重ねが、
数か月後、数年後の大きな違いを生み出します。

「もう良くならない」と感じている方にこそ、
脳幹のこと・姿勢と環境のこと・ホームエクササイズの組み立て方
一緒に考えていきたいと思っています。

あなたとご家族の「これから」が、
少しでも前向きに、少しでもラクになる一助になればうれしいです。

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